コンサルティング事例「見える化」と「仕組み化」で次世代にバトンを渡す基盤作り社会福祉法人綜合施設美吉野園様とは、2020年から3ヵ年プランでリーダー層のマネジメント力強化と、人事考課制度の改革に取り組んで参りました。コンサルを上手に活用し、理想的な制度構築をされた背景にはどのような工夫があったのでしょうか。副理事長の森川様と常務理事の岡本様に、取り組みの詳細とコンサル活用のポイントなどをお伺いしました。課題10年前に構築した人事考課制度では、管理職層および次世代の人材の育成が困難。ツールや制度が事業の発展に役立っていない。運用の見直しが必要。成果人事考課制度の見える化によって、経営者側と職員側の双方向から意見・提案ができるようになった。職員をプロジェクトチームに巻き込んだことで、職員の意識改革を図ることができた。│事業内容│社会福祉法人の意義が問われる時代だからこそ、人的資本を第一に考える― あらためて、美吉野園様の事業と、経営されていく中で大事にされていることを教えてください。副理事長 森川様(以下、森川):社会福祉法人綜合施設美吉野園は1948(昭和23)年に創業し、今年で76年目を迎えます。昭和初期、今でいう民生委員を務めていた創業者が寒さと飢えに苦しむ方たちの救済を目的に、私財を投じて老人寮と母子寮を立ち上げたのが始まりです。 現在は、特養を含めた高齢者支援施設、障害者支援施設、診療所、保育所などの計10事業所を運営しています。私が経営する中で大事にしていることは、「ご利用者に安らぎと幸せを。職員は真心と向上を」という経営理念の実現です。ここには創業者の「名聞を求めず利益のために動ぜず」「求められずして奉仕する」という信念が含まれています。2000年に介護保険制度が施行され、福祉事業も利益の追求が不可欠になりました。しかし結局のところ、私たちの存在意義は経営理念に基づくところにあります。限られた経営資源をどう有効に使うか。中でも人がもつ知識や技術、資質などの人的資本を第一に考えた経営が、今の美吉野園の強みだと考えています。|課題と背景|将来の管理職を育てる人事考課制度が不可欠― 経営理念の実現に向け、抱えておられた経営課題はどのようなものですか。森川:人的資本を高めるときに、まず課題に挙がったのが管理職層のマネジメントスキルでした。マネジメントスキル向上を目指した制度改革には以前から取り組んでおりましたが、仕組みを作って終わってしまっているのが現状で、研修やBSC、人事考課制度が事業の発展に役立っていなかったのです。ですから、人材育成を第一目的とした制度構築が求められていました。対象は現在活躍する管理職だけでなく、5年後10年後に管理職になっている職員を含める必要がありました。― 将来の管理職を含めた課題設計が美吉野園様の特徴だと感じています。先を見据えた課題設計をされたのには、どのような背景、お考えがあったのでしょうか。森川:これまでの人事考課制度には、まだまだ年功序列のきらいがあり、それが若手人材の育成の弊害になっていることに気づいたのです。また、将来の経営を考えたとき、未来を作るのは次世代の人材です。それにはやはり長期的視点が必要です。今のマネージャーの育成と、新たに生まれてくるマネージャーの育成を両輪で進めていくのが必要不可欠だと考えました。|コンサルタント導入の経緯|内部を動かし改革を起こすには、外部の力が必要― その課題解決に向け、外部のコンサルタントを導入されたのはなぜですか。森川:われわれ社会福祉法人は、どうしても情報が不足しがちです。他の法人さんの取り組みが分からない状況下で、自分たちを正しく見つめ直すことはできません。人事考課制度の改革では外部の視点を取り入れて課題を整理し、適切な解決方法を導き出す必要がありました。2011年にISO9001を認証取得 しましたが、外部監査を通して環境を整備する点において同様の意図があります。もう1つは、内部を動かすために外部の力が必要だったためです。何か新しいことをする際、職員の気持ちを動かすのは簡単なことではありません。内部だけでなく外部からメッセージを発信することで、職員に気づきを与えられるだろうと考えたのです。― 数あるコンサル会社の中から日本経営を選んでくださった経緯を教えてください。森川:日本経営さんを知ったのは、奈良県の社会福祉協議会の経営相談室でした。社会福祉法人が限られた資源で結果を出そうとするのであれば、コンサルタントはやはり福祉に精通する専門家であることが必須条件です。ですから、福祉業界で定評のある日本経営さんを選んだのは自然な流れでした。2008年に最初の支援を受け、そこで信頼関係を築けていたので、今回も当たり前のように日本経営の担当者さんにご連絡しました。|課題の解決方法と成果|「見える化」と「仕組み化」で持続可能な社会福祉法人へ― 2020年から3ヵ年プランでご支援させていただきました。われわれの支援を含め、具体的にどのように課題解決に取り組まれたか、詳しく教えてください。森川:先ほど申し上げた、作り上げて終わってしまっていたことの一番の要因は、経営者側と従業員側の考え方の違い、温度差にあったと認識しています。そのため今回の取り組みでは意思共有に時間をかけ、丁寧に土壌を作ることに注力しました。具体的には、まず管理職層の意識改革という観点で、2020年にマネジメント教育からスタート。翌年2021年に人事考課制度を構築、2022年に人事考課制度のトライアル運用を実施しました。2023年には制度定着のためのフォローアップもしていただいたので、実質4年間の取り組みですね。― 経営者としてプロジェクトを推進しながら、実際の運用は若い職員さんを含めたメンバーで実行されました。メンバー選定への想いについてもお聞かせください。森川:育成という視点で考えたとき、評価者の意見はもちろんのこと、評価者になりたての職員の気持ち、評価を受ける職員の気持ちも大切にし、それを反映することが重要だと考えました。それを踏まえ、各プロジェクトのメンバー選びは工夫しました。組織の全体像を整える「等級制度プロジェクト」は施設長クラスの人材で、それに伴うお金を整える「賃金プロジェクト」は本部の一般職員を含めて構成。メインの取り組みである「人事考課プロジェクト」では、現場の一般職員、主任と副主任、施設長など立場が異なる人材を織り交ぜてチームを作りました。― そのアプローチを通じて得られた成果や変化はどのようなものでしたか。森川:人事考課制度運用にあたり、日本経営さんの「人事評価ナビゲーター」を導入しました。このツールには職員個々がアウトプットできるメモ機能があり、それをフル活用できていると感じています。メモにはこれまで胸の内をさらけだせなかった職員のリアルな想いが綴られ、それをわれわれ経営陣が見て、その職員にアプローチできる。この「見える化」によって双方向から意見や提案ができるようになったのは、組織として非常に大きな変化です。もう1つ、プロジェクト終了後もプロジェクトメンバーだった職員が、能動的に改善のための情報を発信してくれていることです。自分たちが組織を作っているという意識改革ができたものと考えています。常務理事 岡本様:法人会計を担当する私から見ても、過去にない成果を感じています。人事考課制度構築にあたり、日本経営さんのご支援を受けてBSCの見直しも行いましたが、BSCの数値目標がこれまでにない勢いで達成されています。それを職員の給与や賞与に反映でき、頑張っている職員に還元できる仕組みを作ることができました。一般職員も巻き込んで皆で作り上げた目標であることが、こんなにも結果を伴うとは正直思っていませんでした。また、規定類の仕組み化にも成功しました。たとえば賃金プロジェクトチームと一緒に作成した給与規定では処遇改善加算なども活用しながら、生きた運用ができています。これらをすべてうまく運用できれば、継続的に安定した経営が可能になるのではないかと思っています。森川:岡本常務理事の言うとおり「見える化」と「仕組み化」で、いわゆる人事のDX化を図り、次世代にバトンを渡す基盤が作れたと感じています。まさに、持続可能な経営のスタートです。― 人事DX化と言葉で言うのは簡単ですが、実現するのは容易ではありません。実現化に向けて何か秘訣はありますか。森川:おそらく美吉野園の組織風土が関係していると思います。理事長は一貫して現場を大事にしてきました。経営陣はいつか居なくなりますが、理念だけはずっと忘れてはならないということが、職員にも浸透してきているのかな、と。今年の事業計画の事業方針で、理事長は職員に向けて「創業100年を迎える2048年、私たちがありたい姿は何でしょう。想像してみてください」というメッセージを投げかけています。一人ひとりが理想と夢をもつことが、施設の価値と職員の幸せにつながります。職員自身が幸せを感じない限り、利用者様や地域に幸せをお届けすることはできませんからね。そういうことをしっかりと考えられる風土がある法人だと、私自身も日々感じています。|コンサルタントの活用ポイント|職員のコンサルタントに対するマイナスイメージを払拭すること― 美吉野園様は非常に効果的にコンサルをご活用いただいている印象です。経営者の方に向けて、コンサル活用のポイントなどがありましたらお聞かせください。森川:職員さんたちのコンサルタントに対するイメージを変えることを意識されると良いかと思います。コンサルタントを導入する際は、現場から否定的な意見は往々にして出てくるものです。しかし、そのままでは課題解決は図れません。「コンサルタントは課題解決に向けて一緒に取り組むチームの一員」であるという意識に変えていく必要があります。そのために、経営者、基幹となる職員、コンサルタントの3者で話し合い、なぜコンサルが必要なのか、支援を受けてわれわれはどうなりたいのかを本気で話し合うことが大事。その際、コンサルタントはあくまで助言者であり、主となり動くのはわれわれであると、互いの立ち位置をはっきりさせると理解を得やすくなります。自分たちを守るために外部の視点を取り入れる。そのスタンスでコンサルタントと付き合っていかれると良いかなと思います。事業者名:社会福祉法人綜合施設美吉野園所在地(都道府県):奈良県 従業員数:約200名URL:https://www.miyoshinoen.jp/社会福祉法人綜合施設美吉野園さまで導入された、人事評価ナビゲーターは「こちら」